2012年2月12日日曜日

中古車流通の今後を考えてみる

今現在、中古車流通におけるメインのインフラストラクチャーはオートオークション(AA)である。ディーラーや買取専門店はAAを通じて車両を換金することで業務を効率化しており、仕入側の中古車販売店も選択肢が豊富なAAを主たる仕入先と位置づけている。AAは現状の日本の中古車流通において、無くてはならない「ハブ」として機能をしている。しかし、現行AAモデルは早晩、限界を迎えることが確実である。そう遠くない将来において、中古車流通業界は新たなモデルを創出する必要に迫られることになる。

国内の人口は減少の一途を辿っており、将来的に自動車の販売・保有台数も比例して減少していくことになる。これは同時に、今後は国内での中古車が増加をすることはなく、主要な市場であるAAの出品台数も増加することはないことを意味している。

また、エコロジー思想、ライフスタイルや価値観の変化、経済環境の不透明感などにより、自動車を必須としない層も出現してきている。こうしたユーザーマインドの変化も、自動車の販売・保有台数減少の一因となっており、この流れは一時的なムーブメントで終わらないであろうことは想像に難くない。人口減少と意識の変化という要素は、AA市場規模を縮小させるには十分なインパクトを持っている。

その他、中間流通に関わるプレイヤーの動向もAA市場に大きな影響を与える。新車販売店や買取店はAA市場における主要な「タマ」の供給源であり、その出品割合は約40%(主要AA会場平均)にも上る。しかし、昨今の市場環境の変化に合わせて、供給源である各プレイヤー達は自社・系列から「タマ」を流出させない政策へシフトし始めている。新車販売の不調から中古車を強化したり、業販よりも利益率の高い直販に注力をしたり等、取組み内容や動機は様々だが、ユーザーから仕入れたタマを自社で商品化を行い、自社で販売をするという流れが顕著になってきている。これはAA市場に良質な「タマ」が供給されにくくなるということであり、AAは商品価値の低い車両の「放出の場」という性格を強めていくことになる。

また、中古車販売店のビジネススタイルの変化も重要なファクターである。長期に渡る小売販売の不振により、中古車販売店はリスクやコストの高い展示在庫を持たなくなりつつある。展示在庫を「看板」と位置付け、販売の軸足を「注文販売」にシフトする販売店も着実に増加をしている。また、他店との差別化、透明性・公正性を訴求する為に、「手数料販売」を採用している販売店も台頭し始めている。

必要な商品を必要な時に仕入れをする彼らにとっては、顧客の注文に沿った必要な車を仕入れることさえできれば、仕入先はAAである必然性はない。元々、AAは仕入先の選択肢のひとつでしかなく、「タマ」が豊富であることが理由で主たる仕入先となっていた。しかし、昨今のAA市場ではその強みであった豊富な「タマ」が減少してきており、なかでも、商品価値の高い良質な車両、いわゆる「良いタマ」の減少は特に顕著である。そのため、彼らが顧客の注文に沿った車をAAで見つけられる可能性が徐々に低下し始めている。AA市場では「タマ」を比較・選択できないことはおろか、そもそもAA市場には出ていないということも現実におこり得る状況になってきている。

こうした状況下では、この一台を逃すと他では簡単に見つけることができない、という希少性に顧客が納得さえすれば、多少は価格が上がったとしても顧客はその車両を購入することになる。当然、販売店側は顧客がその金額でも買うとなれば、相場に固執する必要は希薄になる。これは市場の価格を左右してきたAA相場崩壊の予兆である。そうなると販売店にとっては、多少価格が高めでも、顧客の希望する車両が確実に仕入れることができる「場」が、より魅力的なものとなる。

その一方で、中古車市場において希少価値が高まった「良いタマ」は、様々な販路においても引き合いが強く、AA以外の取引においても高値を維持することが可能になる。つまり、出品側にとっては、AA以外にも高値で換金することができる「場」があれば、そちらへの出品も十分に選択肢となり得るのだ。

この出品側・落札側の両者にとって、魅力的な「場」として急速に成立しつつあるのが「共有在庫市場」である。そして、この「共有在庫市場」と現行AAとは決定的な違いが存在する。それは「明示された価格」と「時間」である。

前述の「注文販売」を行っている販売店にとっては、現行AAモデルは極めて非効率なものである。せっかく注文があっても、仕入れができるかもわからない、正確な金額もわからない、納車日も確約できない、全ては開催日まで待たなければわからない、という現行AAモデルは、スピード・確実性を欠いた非合理的なモデルであると言わざるを得ない。彼らが求めることは、必要な車を必要な時に、確実に仕入れることであり、顧客の要望に明確に答えることである。そんな彼らのニーズを満たすことは、現行AAモデルでは困難であるが、「共有在庫市場」では可能なのである。

そして重要なことに、彼らは決して特殊なマイノリティーではないということだ。インターネットの普及に伴い、中古車流通は業者間のクローズドの世界から急速にオープン化が進んでいる。業者間AAの存在や、その仕組は広くユーザーに認知されるものとなり、また、相場情報も簡単に入手が可能である。他にも様々な問題点を孕みながらも、ネット上での個人間取引・業者間取引も活況を帯びてきている。そうした現在の状況と、前述のAA規模の縮小とを合わせて推察をすると、「注文販売」「手数料販売」という流れは、これからの確実なトレンドである。

この時流の中では、過去において「車屋」としての成功体験(いくら抜いてやったというような体験)が強烈な業者の一部は、前述のトレンドへとマインドをシフトさせられず、淘汰される者も出てくることになるであろう。今後は、中古車販売店の母数も間違いなく減少をしていくことになる。

これらのことから、中古車流通における「ハブ」「市場(いちば)」としての
AAは、遠くない将来において、その役割を変化させられることになる。今後AAは「換金の場」としての機能は残しつつも、「仕入れの場」としての機能については「共有在庫市場」に取って代わられることになる。また、その「共有在庫市場」も、そう遠くない時期に業者間取引のクローズドな場ではなくなることが予想される。

何故ならば、前述の理由から「タマ」不足になった中古車市場は、新しい「タマ」を求めて、中古車の発生源であるユーザーの情報を押さえることに注力することになるからである。そして、中古車を源泉で押さえようとすればするほど、ユーザーと中古車流通市場の距離は短くなっていく。セカンドハンドの流通における究極形はC2Cであるため、ネット上で個人間取引が既に存在するように、早晩、ユーザーは自分の車両を自分の手で流通に乗せようとするであろう。その結果、「共有在庫市場」は、売るのも買うのも主体はユーザーになるものと考える。しかし、車はその特性上、多くのユーザーにとっては少なからずBの介在を必要とするものである。中古車流通市場におけるBの存在が無くなることはないが、そこでのBの役割は変質することになる。ユーザーの取引におけるサポート業務(諸手続き代行や整備等)を行い、その対価として手数料を受け取るという「完全手数料モデル」へとシフトしていくことになる。

また、C2C(個人間取引)の大きな問題点を解決するためにもBの介在は必要となる。現状の個人間取引には、検査・保証体制が間に入る仕組みがないため、胡散臭い中古車屋から購入するよりも、もっと「アブナイ」商品となってしまっている。この問題に、プロフェッショナルであるBが介入し、「安心感」や「信用」という価値を付加することができれば、C2Cはオフィシャルな市場として確立されることになる。

以上のことから、中古車流通における次の新しいモデルは、現状の個人間取引における問題点を解消した「C2C共有在庫市場」(おそらくはバーチャルなものである)になると考える。そして、「C2C共有在庫市場」を早期に構築した者が、次の覇者として市場を牽引していくことになるであろう。しかし、この覇者は、AAを基幹事業として成長をしてきた事業者では困難であると考える。AA事業者にとっては、これはAA否定・自己否定と同義であるため、恐らく現状のAA事業者の多くは自己否定ができず、ブレイクスルーには至らないからである。

この覇者になり得るのは、以下の要素を持った(またはアライアンス先を保有している)事業者であると考える。
①  中古車流通に近い
② AA事業者と直接的な利害関係にない
③ 「車屋」をメインの顧客としていない
④ Cとの接点を持っている
⑤  全国を対象としたネットワークを持っている

変化の瞬間は迫ってきている。